小学校4年生の物語文の中に、「初雪のふる日」があります。皆さんはどのように授業を進めていますか。今回は「初雪のふる日」を心情曲線で話し合った授業を紹介していきます。これから授業を行おうと考えている方の叩き台にしていただけたらと思います。
目次
「初雪のふる日」を読み、作品を捉える
まずは教師が、「初雪のふる日」の作品の特徴を捉えます。
登場人物は、
「女の子」「白うさぎ」「たばこ屋のおばあさん」「おばあさん」「隣の村の人」です。
作品に出てくる色や様子を表す言葉は、冬と春で対比されています。
(冬)
・白うさぎ
・こおった湖
・さざんかのさいた小さな町
・手足はかじかんで、氷のよう
・ほほは青ざめ、くちびるはふるえて

(春)
・よもぎの葉のあざやかな緑
・草の種
・花のにおい 小鳥の声
・あたたかい春の日
・体は温かくなり、ほほは、ほんのりばら色

です。冬と春をとても対照的な色や言葉で表現しているのがわかります。作品について見ていくと、
安房さんの作品は国語教科書(光村図書)でこの単元の最後に「花のにおう町」「雪窓」などが紹介されていますので、これらも読んでみました。「きつねの窓」(教育出版の国語教科書(小学6年生)に収録されていたそうです)も読んでみました。安房さんについても、ネット上にいくつかの情報が載っていましたので調べみました。どうやら、「異界に迷い込む」というパターンを安房さんは何度も使っているようです。現実世界→異界→現実世界という流れを経て、主人公に何らかの変化をもたらします。
幻想的作風だが、あくまで日本的な民話風の趣をもった作品が多く、晩年の作品では、死後の世界を意識したものが多いとする評もある。
「安房直子出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より
というように、安房直子さんの作品では、「異界」という表現を多くしているようです。この作者の視点を考えると、「初雪のふる日」を読むことで、「現実とは違う世界を想像させる」ことや、「幻想的な世界に浸る」ということを読者に伝えたいように感じます。確かに読んでいて一種の「怖さ」を感じる作品ですね。
筆者の思いをもとにこの作品の主題を考えると、
「冬から春への季節の移り変わりを、寒く暗く怖い閉鎖的な異空間から、暖かく明るく開放的な空間へと変わることを物語を通じて感じてほしい」
という思いではないでしょうか。これが作品の特徴になります。
「初雪のふる日」の心情曲線は、「女の子」の「怖さからうれしいへの気持ち」で追う
「初雪のふる日」のクライマックスの場面は、石けりをしている「女の子」が白うさぎの列の中から出られなくなってしまい、その後なぞなぞをきっかけに石けりから出られる場面です。そこでこのお話では、「女の子」を「中心人物」として考えていきます。そのときの、「女の子の気持ち」を考えます。
そこで心情曲線は、「女の子の気持ち」を書き込むワークシートにします。使った心情曲線は以下のファイルです。上のスペースには教科書の本文を貼り付け、文章のどこで曲線が変化するかを曲線で示していきます。
「女の子」は、白うさぎの列にいつの間にか入ってしまい、石けりから抜けられなくなって怖い気持ちをもっていたこと。それが最後には、白うさぎの列から出られてほっとしているような様子がわかります。どこかで「白うさぎの列から出られなくて怖い」から「列から出られてうれしい」に変わったことを確認して、「どこで変わったのだろう。」と問い心情曲線のワークシートを配ります。
「女の子」は白うさぎの列から抜け出せずに遠い場所まで連れていかれそうになっているのだから、当然曲線は怖いの場所にあるはずです。
クライマックスの場面では、子どもの中には、「抜けられてうれしい」曲線をいろいろな場所で書く子がいます。そこで2つの曲線を取り上げ学習問題とします。
クライマックス場面の心情曲線で分かれたのは、
A「うさぎの白は、春の色」の部分からうれしいの場所まで上がる曲線と、
B「よもぎ、よもぎ、春のよもぎ」の部分でうれしいに上がる曲線です。
「初雪のふる日」の主発問は、「女の子の曲線はどれが正しいか」で話し合う
どちらの答えが正しいと思うか、自分の考えをノートに書きます。書き終わったら、A 、B のどちらの考えかはっきりさせるため、黒板にマグネットを貼って立場をはっきりさせました。
2つの意見について話し合いを行います。「女の子」の「開放されてうれしい」気持ちは、
A「うさぎの白は、」のときに高く上がるのか、
B「よもぎ、よもぎ、春のよもぎ」で高く上がるのか、どちらの場面かです。
Aでは、賛成意見として、
「うさぎの歌が、雪の白から春の色に変わったから」や
「この歌が始まるのと同時に女の子の調子がよくなってきたから」
という意見が出てきました。
一方Bの賛成意見では、
「おまじないをとなえることができたから」や、
「おまじないを言った後に『たった一人で』と書いてあるから」
という意見が出ました。
Aに対する反対意見として、
「まだうさぎの列はなくなってはいないから」や
「だんだん温まってきたから、まだ完全に温まっていないから」
「『花のにおいをかいだような』や『小鳥の声を聞いたような』『だんだん温かくなり』『ほんのりばら色』というように、すべてまだ途中まで感じているだけだから」
という意見が出ました。
Bに対する反対意見として、
「おまじないはさいごの言葉で、それまでに女の子は春を感じているから」や
「うさぎの中でも『うさぎの白は春の色』に歌が変わっているから」
という意見が出ました。
立場を決めて話し合いを行ったので、最後には解を示しました。Aの子たちの、「花のにおいや小鳥の声、春の日という言葉に気づいたこと」を大いに認めた上で、答えはBです。なぜなら、女の子の、「花のにおい」も「小鳥の声」も、「春の日」も、すべて「ような」という確実なものではありません。つまりまだ「冬」という「異空間」から抜け出せていないのです。体が温まり動くようになって始めて、「よもぎ、よもぎ、春のよもぎ」と唱えることができ、「春」という「現実」の世界にもどってこれたことを考えると、ここで「うれしい」に気持ちがガラッと変わったと考えられます。
「冬という冷たくて暗い異空間から少しずつ体が温まり、春という温かくて明るい現実に戻ることができた。これは作者が、冬から春に変わる際、周りの景色や体の温かさなどの変化を自分自身が受け止め、だんだんと変わっていく様子を、この物語で表現したかったからなんだね」と伝えて授業を終えました。
まとめ
いかがだったでしょうか。今回「心情曲線」にして立場を決めて話し合うことで、子どもたちは教科書の中身をよく読み、自分の思いを込めた読み込みができるようになったのではないかと感じています。音読劇を見合い交流しあうことも大切ですが、深い読み取りのために、教科書を元に話し合うことも大切な技能です。どんな風に授業を進めようか悩んでいる方にとって、今回の授業の流れを叩き台にしていただければ幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。