平成30年度から「道徳」の教科書ができ、教科書の内容を行うことになりました。当然道徳の授業は教科書の内容を行うことになると思いますが、教科書の内容ってジレンマ教材ではないことが多く、授業の盛り上がりを考えると使いづらいと感じませんか。「でも教科書の内容をやらないと。」と考えがちですが、実は教科書の内容は必ずやらなくてはならないわけではありません。教科書の内容でなくても、同じ価値でよりその価値を高められる教材であれば他の教材でもいいのです。
では,教科になれば道徳科の授業において教科書を必ず使用するのかといえば,一年間の全ての授業において教科書を使用しなければならないという拘束性はないと思われます。その理由として二つが考えられます。一つは,学校教育法第34条第2項に「前項の教科用図書以外の図書その他の教材で,有益適切なものは,これを使用することができる。」とあり,児童生徒の道徳性を育むことに,より効果がある場合は,教科書以外の教材を活用することが可能であることを明示しています。…
詳しくは以下のサイトをご覧ください。
https://www.mitsumura-tosho.co.jp/tokubetsu_dotoku/column/qa/vol17.html
そこで今回は、「生命尊重・自然愛護」をオリジナル教材で実践してみるという提案です。題材は「シャンプー」です。実際に授業で行った内容を紹介します。教科書の内容を進めるだけで大変なのはわかりますが、ジレンマ教材になる題材ですので、「生命尊重・自然愛護」の授業の進め方の叩き台にしていただけたらと思います。
目次
ジレンマ教材で話し合いその1 題材「シャンプーの作り方」を画像で知る
まず以下の画像を黒板に提示します。

「これはなにをしている写真でしょうか。」
と問います。「うさぎの治療」や「売るためにたくさん飼っている」などの意見がでます。
正解は、「シャンプー」を製造する前の実験を行っている場面です。なぜ「うさぎ」を使って実験をするかというと、「人体に影響がないか調べるため」です。つまり、実験をしないで突然人の目が見えなくなってしまっては困るから、まずうさぎの目で実験をしているというわけです。これは現在(2019年)も行っている会社もあります。(ヨーロッパでは禁止されています)
ここまでをおさえて学習問題に入ります。
ジレンマ教材で話し合いその2 立場を決めて話し合う
「シャンプー」の動物実験について説明が終わったところで、「動物実験に賛成か反対か」を問いました。ノートに考えを書かせ、書いた子から黒板にネームプレートを置き立場をはっきりさせました。始めは、賛成派4人、反対派26人でした。
賛成派の子たちの意見は、「人間の目が見えなくなってしまうのは困るから仕方ない。」「もし見えなくなったら治せない。」という意見でした。
反対派の子たちの意見は、「うさぎがかわいそう。」「うさぎも生きている。人間のために見えなくなるのはかわいそう。」という意見でした。
そこで反対はの子たちに、
「ではどうやって害があるか確かめますか。」
と聞いてみました。
「新しい実験方法を開発する。」という意見がでました。
代替法は、これまでにない規模の予算と人材が投入されてその開発が猛スピードで進められてきました。ヒトの皮膚細胞を培養して作られた精巧な試験モデルや化学物質の構造からコンピュータで毒性を予測するシステムなど、最新の技術が駆使されて開発された代替法はすでに各国で実用化されるに至っています。しかし残念ながらいくつかの試験項目は現状ではどうしても代替が難しいとされ、化粧品業界による反対の理由として使われてきました。なぜ化粧品業界が禁止に反対するのかというと、いまだ市場に出ていない新成分を開発すれば大きな利益をあげることができ、その安全性を確認するために(代替法のない)動物実験が禁止されてしまえば、新成分開発という “虎の子”を奪われてしまうからです。
「人による細胞を使った実験」や「コンピュータで毒性を予見するシステム」はあるものの、2019年現在、いくつかの試験項目では「動物実験に替わる新しい実験方法は開発されていない」ことを伝えました。
また、こんな画像も見せました。「化粧品を使って肌が荒れてしまっている人の画像」です。実験をしないとこんな被害が出る人が増えてしまうことを説明しました。

次にお互いに意見を交換してみることにしました。
賛成派から反対派の子たちへの意見は、
「自分が目が見えなくなってもいいんですか。」
「肌が荒れてかゆくなってもいいんですか。」
「動物はかわいそうだけど必要な実験だから仕方ないと思う。」
という意見が出ました。
反対派から賛成派の子たちへの意見は、
「人間のためにうさぎが見えなくなってもいいんですか。」
「もう新しいものを開発しなければいいんじゃないですか。」
「今あるものでいい。」
という意見が出ました。反対派の子たちの人数が多かったので、反対派の子どもたちに、
「自分や自分の家族が目が見えなくなってもいいんですか。」
と聞いてみました。少し考える子が出てきました。他人の問題だと思うと綺麗事を言えますが、自分や自分の家族となると判断は難しくなります。あえて揺さぶりをかけてみました。
最後にどちらに賛成かを聞くと、賛成派3人、反対派27人になっていました。わたしのクラスでは、「人間に起こる害」よりも、「動物の命」という考えが強かったようです。
話し合いの後に教師の考えを述べました。
賛成派の子たちは、決して「動物の命」を軽く見ているのではなく、「人間が犠牲になってしまうのなら仕方がない」という考えであることを説明しました。一方、「アレルギー」などの人のためならまだしも、「新しい商品を開発する」ということは、シャンプーや化粧品会社の「お金もうけ」につながってきます。「お金もうけ」のために「動物の命」を使って実験するのなら、これは反対と考える皆さんの言う通りだと思いますと伝えました。
ジレンマ教材で話し合いその3 どんな生き方がいいか話しをする
最後に子どもたちに、
「これから動物に接するとき、どのように接していきますか。」
と尋ねました。子どもたちは自分の思いを込めてワークシートに書き込んでくれました。
「どんな動物にもやさしくしてあげたい。」
「痛い思いをさせない。」
「飼っている犬を大事にしたい。」
などの思いがたくさん出てきました。今回は2つに別れ話し合いましたが、本当は賛成派の子どもたちの中にもこのような思いがあったようです。「動物だから軽い命」でなく、「動物も同じ命」であることを伝え授業を終えました。
まとめ
いかがだったでしょうか。子どもたちの振り返りを見ると、「動物」であっても「人間」であっても、「命は同じ」という考えが深まったのではないかと感じています。道徳の授業で「生命尊重・自然愛護」を取り扱う際、試していただけたら幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。